2023/8/13より活動休止

姉の家

とうとう来年3月で学生生活が終了する。もうすぐ私も、世間一般的に「社会人」と呼ばれる身分になってしまうのだ。だが22歳を超えた今でも、私は大人になれていない。なりたくない。なりたくなくて、しょうがない。

私には3つ年上の姉がいる。彼女は新卒で入社した会社を1年足らずで退社し、その後も最短1ヶ月で転職に踏み切った女。現在新卒3年目にして4社目の会社で働いている。私には劣るが、なかなかの「自由人」っぷりだ。まともな生き方をしない娘を、2人も持ってしまった心配性の母親には「気の毒」以外にかける言葉がない。しかし、私も姉も好きでフラフラ生きているわけではなく、これはもはや「血」の問題なのである。詳細は述べないが、私の家系はバライティ豊かな豪華社会不適合者が勢揃いなのだ。母親には、恨むなら血を恨んで欲しいと伝えておこう。

そんなアグレッシブな姉は、去年の4月に実家を出た。そして今年4月。1人暮らし1周年を迎えた瞬間に、新しい家へ引っ越した。先日はその引っ越しを手伝うために、私は自宅警備員としての制服~パジャマ~を剥ぎ取られ新しい姉の家へと駆り出された。

前まで姉は、せっまいせっまいワンルームに住んでいた。おがくずが詰め込まれたハムスターケージのほうがまだQOLが高いのではないかと思うほど、そこは狭くて冷たい空間だった。だが、今回姉が引っ越した家はそれなりに広さがあり、日当たりも良く、いかにも「東京OL部屋」という風態。なぜかご丁寧にウォーターサーバーまで鎮座している。テレビやらソファーも新調したらしく、姉の家は「ちゃんとした家」になっていた。

3歳差の姉。

私が中学生の時、姉は高校生。私が高校生の時、姉は大学生。

そして、私が大学生になると、姉は社会人になった。

いままでずっと、姉は私の「次」のステップにいる存在だった。しかし学生の頃とは違い、社会人になると「3歳差」は「誤差」でしかなくなる。もう来年には、私も姉と「同じ世代の大人」になってしまうのだ。私はそんなの認めていないのに。それに、もう一つ、納得いかないことがある。そもそも、いつの間に姉は大人になっていたのだろうか?去年まで同じ実家に暮らしていたのに。「姉の家」という、「姉が大人でなければ存在し得ないもの」が存在していること自体、私はまだ慣れていない。

転職魔とはいえ『ちゃんとした大人』になり、『ちゃんとした家』で1人暮しをしている姉を見ていると、私が目を逸らし続けていた「大人の階段」の気配が背後から迫ってくる。私も次は、今の姉と同じように、大人になってしまうのか。でも、そのことを私は受け入れたくない。私は大人になるのがこわい。学生時代よりも理不尽と建前だらけな世界になってしまう気がするから。でも、親はいずれ死ぬ。ちゃんと金銭的にも精神的にも自立しなければいけない。

なりたくなかった「ちゃんとした大人」に私がなれてしまったら、それは喜ぶべき事態なのだ。

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この記事を書いた人

白森 さわ まんが家・イラストレーター

絵や文章をかいたり、歌ったりしながら生きています。

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