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ブログ日記

日比谷ショッピングガイド

 

床にネジが4つ落ちている。

体を揺すると、もうひとつネジが弾けて足元に転がった。

もう寿命のようだ。長年の付き合いで愛着もあるのだが仕方がない。私はニューフェイスを迎えるため、ミシミシと音を立てながら腰を上げた。

椅子。それは一日中座り仕事をする人間にとって、QOLに多大なる影響を与える家具である。私も例に漏れず、ほぼ毎日12時間以上は自室の椅子に座りPCと向かい合っているため、椅子の座り心地は大変重要だ。しかし使用時間の長さに比例して、椅子に蓄積されるダメージも右肩上がり。私が5年以上使用してきたこの椅子も限界を迎えていた。

座る際にギシギシ音が鳴るのはあたり前。ネジがほぼ抜け落ちているため、座っているだけで座面がグラグラと揺れる。下手すると、座った瞬間に座面が70度傾いて落下しそうになる。ネジを締め直しても2日後にはまた全部抜ける。

一体いつから私の椅子はこんな腐った入れ歯のようになってしまったのか。残念ながら小林製薬も椅子安定剤は流石に取り扱っていない。降参するしかないようだった。私は目当ての椅子の試座をするために、とあるセレクトショップへ足を向けた。日比谷駅を降り、店舗のアクセスマップ通り数分歩く。

無事私は店を見つけ、そして後悔した。

明るい店内が眩しい、全面ガラス貼りの外観。明らかにコンビニの眩しさとは別種の高尚な光を放っている。そして入り口にはにこやかな店員さんがひとり佇んでいた。店内各所にも店員さんが配置されており、いずれ来る客を今か今かと目を光らせながら待ち伏せしている。客全員にきめ細やかな接客をするための配慮だろう。並べられている商品も、いかにもtokyoといった風情でセンスが光っていた。

おしゃれすぎる。

入れない。

そもそも私は、店内のあらゆる床や壁が白くて照明もピカピカ輝き店員さんがたくさん話しかけてくる店が苦手なのだ。つまり、ヤマダ電機にすら一人で入る度胸がない人間なのである。こんな私が、こんなおしゃれで意識の高い雰囲気の店にどうして凸撃できるというのか。

店の様子をガラス越しに外から伺っただけでビビり散らした私は、一度冷静になるために日比谷駅の改札前まで戻った。パカパカと口を開いては閉じる改札をしばらく眺めて精神を統一させたのち、家族のグループLINEで「店がシャレオツすぎて入れない」と助けを求める。しかし母親と姉からは「はよ入れ」というコメントしかこなかった。これが私たちの生きる2021年なのか。無情である。

入店するしかないのか?

たしかに、わざわざ日比谷まできたのだ。ここでUターンするのはあんまりだろう。私は地下鉄改札口の生ぬるい空気を肺に吸い込み、決意を固めた。

再び店舗前まで戻る。店から発される光が私の目を焼いた。だが、もう戻れない。私が戻れる改札口はもうないのだ。右足を一歩踏み出す。店入り口で待ち構えていた店員さんと目が合う。私は目を逸らしそうになるのを堪え、目も止まらぬ速さでアルコール消毒ポンプをプッシュした。噴射されるアルコールとともに「ご協力ありがとうございます〜」という店員さんの声が響く。検温カメラが私の平熱を証明するのを横目で確認し、忍足で店内へと侵入した。

私の目当ての椅子はーーあった。店内左奥。だがその椅子には、先客が座っていた。カップルで店に来た先客2人が座っていたのだ。

背中に汗が一筋流れるのを感じる。この状況は、つまり、『この先客が立ち退くまで、店員さんが待ち伏せしている店内をうろついて時間を潰さなければならない』ということだ。そんな地雷原を歩き回るようなシチュエーションに自ら乗り込んでしまったなんて。入店したことを心から後悔したが、もう遅い。とりあえず20代女性がいてもおかしくなさげなアロマディフューザーのエリアでお茶を濁そうと努力した、そのときだった。

「お客様、こちらのご購入をご検討ですか〜?」

無事椅子に試座を終え、帰路についた。店員さんは確かに声をかけては来たが、つきっきりで話しかけてくることもなく、意外と私を放っておいてくれた。そうだ。忘れていたが、別に店員さんは私に攻撃するために配置されているのではない。単にやさしさで声をかけてくれるだけなのだ。よって事前に怯えていたようなこともなく、心穏やかに試座を終えて店を出ることができた。

私が行ったセレクトショップに椅子の在庫はなく、あくまで試座ができるのみであったため、購入は帰宅後オンラインショップで行った。新しい椅子が自宅に届くのは9月中旬。

私はあと二週間ほど、ボロボロの入れ歯椅子に座り続けなければならない。

 

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