世界は不平等だ。
生まれた家、経済力、才能、気質、顔面、体型、体質…そして、毛量。
世界は不平等だ。
頭部の反射効率が上がり涙ぐむ男性が世の中にはごまんといるというのに、私は己の頭髪の多さに辟易している。
美少女は髪の量が少ない。これは長年、美少女ウォッチングをしてきた私が割り出した公式である。美少女とひとくちに言っても様々なタイプの美少女が存在するため、この公式は誰にでも当てはめられる訳ではないが「清楚系儚い美少女」に対しては高い精度を持っている自信がある。肌が雪のように白く手足がすらっとしていて控えめだけれども女の子らしい顔の造形をした、いい匂いのする美少女は大抵、頭髪の量が超少ない。
この公式が暗に何を示しているかというと、私自身は「儚い清楚系美少女」ではないというかなしい事実である。儚いどころか私は、一般女性の2倍は頭髪を蓄えているゴリラ系野生児だったのだ。毛根を欲している男性諸君にしてみれば贅沢な悩みだと思うだろう。しかし、私は困っている。
髪の量が多すぎると、外出できる髪の状態にするだけで一苦労する。まず、ブローしても髪のボリュームが減らないため、絶対に髪を結ばないといけない。黒髪ロングをおろしていられるのは、髪の量が少ない美少女だけなのだ。しかし、ここで「髪を結いたくない」からといってショートヘアやボブにしてはいけない。そのような愚行を犯した暁には、自重を失った髪がロングヘアー時よりも広がり、セカンドインパクトが起きてしまう。
だからといって、結って問題解決かといえば、そうはならない。毛量二人前の女がポニーテールをすると、髪の結び目の直径が5cmぐらいになってしまうのだ。パブロンの瓶ぐらいの太さを想像していただけば、いかに直径5cmの結び目が、頭痛のするほどのゴン太さか分かっていただけるだろう。そしてポニーテールを諦め、三つ編みにすると、しめ縄が2本生えた頭になる。神木のようなありがたみはないが、企業からはお祈りされる女の誕生だ。
どの髪型が一番楽でかつスッキリ見えるのか。ありとあらゆる手段を試してきた私だが、最近ひとつの正解に辿り着いた。
簪である。
私は数年前、友人と押上に遊びに行った際に、かんざし屋さんへフラリと寄ったことがあった。蜻蛉玉やきらきらとしたビーズの飾りが揺れるかんざしは、まとめ髪にちょうど良さげだ。今、かんざしという存在を思い出したのも何かの縁だろう。引きこもり生活でなまった足を奮い立たせて、私は押上に向かった。
かんざし屋では、かんざしの試着ならぬ「試簪」たるものができる。想像通り、毛量の多い私の髪もかんざしでまとめると日本風な髪型に見えた。決して手抜きには見えない。これは良いと口元を緩めた私に、試簪を担当してくれた店員さんからのアドバイスが刺さる。「髪の量が多いのでかんざしは二本使った方が良いですね」
なんと二人前の頭髪を持つ私は、二人前のかんざしが必要だったのだ。二人前の簪を用意しなければならないのなら、もはや一人前の箸で代用できるのではないか、という貧乏くさい考えが頭をもたげたが、グッと堪えてかんざしを二本購入。自分がメデューサじゃ無くてよかったという低みの見物をして精神安定を図り、私は帰路についた。
それからというものの、私はかんざしで髪をまとめている。だが、二本のかんざしを使って髪をまとめる方法がよくわからず、結局一本しか使っていない。かんざし屋の店員さんは、一体どういった方法でかんざしを二本使って二人前の髪をしっかりまとめてくれていたのだろうか。私はただ騙されて、かんざしを2本買わされたのだろうか。